『ガラスの家』

(2016年3月1日記)



裁縫をしている間、ず~~~~~~~~~っと観ていたのがNHKスペシャルである。観ていたといっても、ほぼ布を見ていたので、聴いていたというかんじかな。

NHKオンデマンドという一月千円足らずでNHKの特選番組が見放題というのに加入しているので、過去のNHK特集から最近のスペシャルまで、いい番組がたくさん見られるのだ。

長い間ミシンに向かっていたので、どれだけの番組を見たか分からない。たぶん100ぐらいは見ているかもしれない。

しかし、当初見ていたのは、ドラマだった。好きな井川遥が出ているシリーズを全部見た。タイトルは『ガラスの家』、原作・脚本は大石静。若くして妻を亡くしふたりの息子を育ててきた次期財務事務次官の男が若い妻を迎えることで、彼の家族が変わっていくという話だ。家族に恵まれず孤独に生きてきたという、井川遥扮する30代の女性の、その素朴な色気が堅物の男の心を動かし、またその長男の心を捉えてしまう。男手一人で育ててくれた父の期待にこたえようと、長男もまた東大を出て財務省に入省したばっかりだった。それまで仲のよかった親子が、一人の女性をめぐって、また仕事をめぐって対立していく。

出てくる人は誰も悪くない。なにしろ官僚のトップになるほどの男の周辺にいる人たちだから、だらしない人間はいない。みんな家族思いで、家族のためにベストを尽くし、幸せに生きようとしている。だけど、人の心は思うとおりに行かない。魔性の女といわれる彼女も、誰も誘惑していないし、そんなそぶりも見せないし、そもそもそんな気もないのだから。しかし、女の色気は男たちを狂わせる。父は過剰反応して嫉妬して彼女にきつい態度をとり、傷つく彼女を慰めるうちに、息子は彼女を愛してしまう。

官僚社会のなかで失ってしまった若さや正義感を息子に見て、いらだちは倍増したのだろう。ましてや妻をなくしてから自分ひとりで育ててきた子供なのだから。

父が若い女を妻として家に入れなくても、息子は仕事の上で父と対立したかもしれない。理想をいだけば、官僚の世界は矛盾だらけだろうから。国を動かしたかったらトップになるか、むしろそこを去るしかないかもしれない。

そのへんが理想主義者のようにみえて最後は政治家の本性を現す野党のリーダーと、親子との、もうひとつの三角関係を描きながら、うまくドラマ化されていた。

最後は、夫婦は離婚し、女は、職を辞した長男と結ばれる。どこか遠いところで塾を開いて、ふたり仲良く暮らしている、という設定になっていた。

私はトレンディなドラマは馬鹿にしていたけど、これはなかなかよくできていた。登場人物に悪い人がいないのに、傷つけあったり憎みあったりするのは現実の世界でも同じだから。明らかに悪い意図を持った人間と、いかにも愛すべき人間が出てくるというわざとらしいドラマが多い中で、このドラマはおもしろかった。

だれにでも二面性はあり、意識していなくても、誰かを傷つけていたり、癒されていたりする。それは相手のせいだけでなく、自分の過去や生い立ちから来ている、自分でもコントロールできない性格や考え方などが、相手によって良くも悪くも引き出されるということがあるからだ。

似ている親子が同じ女性に惹かれるのは理解できるし、だからこそ憎しみ合うこともあるのだろうとおもう。

女性が自然体だからこそ、周りからはかえって疎まれることもあるかもしれない。

惹かれあって反発しあう。最初から惹かれあわなければ、反発することもない。ドラマは初めから起きない。ドラマとはつねに波乱を含んでいるのだろう。

わざとらしくなく自然に色気を出せる、リアリティのある女優の存在が、このドラマを成功させたとおもう。井川遥はかつて水着をきた元祖癒し系の男性のアイドルだったが、今は一番売れている主婦向け雑誌の表紙を飾る人気女優である。結婚して子供もいる。昔は韓国姓を名乗っていたらしいので、意外と複雑な人生を歩んできたのかもしれない。そしてその屈折や不断の努力が女優としての表現力となっているのだろう。




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