BOCTHED とは直訳で、下手な手仕事をされた、という意味である。整形手術の失敗を経験した人たちがでてくるアメリカのテレビ番組のタイトルなのだが、実にインパクトがある。それにくらべてその日本語訳(整形手術の光と闇)は何て凡庸なのだろう。
舞台はビバリーヒルズ。毎回、過去に整形に失敗した3人のセレブが登場して、ポール・ナッシフ医師とテリー・ダブロウ医師の診断を受けて施術をしてもらい、人生の再出発をするというドキュメンタリー式の番組である。
ユニークなコンビ、Dr.ナッシフとタブロウ |
シリーズがいくつかあるので人気番組なのだろう、日本語の字幕も出る。しかし内容がすごい、登場人物がとんでもない。人間の欲望の限りなさを見せつけられる。彼らはほぼすべてを持っている人たちである。なにしろ世界でもっとも高級な住宅街ビバリーヒルズに住んでいる(あるいはそこの名医にかかりに来る)人たちだから。その金に任せて、もともと普通の人より恵まれている容姿の改造に取り組んでいる。胸を大きくしたり、目を大きくしたり、鼻を高くしたり、肌や唇をぷっくりさせたり、なんていうのはすでに20代の初めからやっているし、腹部の脂肪吸引や顎の切開、性転換なども当然のこととしてやってきている人たちだ。
そういう彼らがふたりの医師のところに来るまでには、もう何度も整形を繰り返して人造人間のようになっている。感覚がマヒしきっている。巨大な胸をさらに大きくしたいとか、アニメのキャラクターのような砂時計の形になるために肋骨を何本も外してウエストを細くしたとか、ジャスティン・ビーバーの17歳の頃の顔にしたいとか、双子の姉妹が同じ大きさの胸にしたいとか、宇宙人になりたいとか・・・要求がとんでもないのである。
彼らの容姿はすでに正視にたえないほど滑稽で奇妙だ。もちろん、過去の手術の失敗により気の毒な思いをしている比較的普通の患者も多いし、番組では基本的にはそういう人たちを治してあげることがメインなのだが、それにしても、あまりに無謀な整形をしてきた人が多い。
セクシーな唇?? |
ウエストを細くしたくて背中の肋骨を取ったという |
もっと胸を大きくしたいの! |
ジャスティン・ビーバーになりたい! |
何度も一緒に整形してきたけど、胸の大きさが違うから同じにしたいの! |
漫画のようになりたくて17万ドルもかけたわ! |
僕は完璧、人形になりました! |
男か女かもうわからない! |
人間が行くところまで行くとこうなるのか、という人たちの展示会みたいな番組なのだ。成功して金持ちになったら誰だって住んでみたいビバリーヒルズの豪邸。最高級の服を着て、世界中から人が集まる会場で、毎晩のようにパーティを楽しみ、ビーチで泳ぎ、それでもお金は入ってくる・・・欲しいものが何もなくなると、持って生まれた容姿をより完璧にしたくなるのだろうか。人間として完璧になると、今度は人形になりたくなる、あるいは、世界で一番大きい胸が欲しくなったり、世界一細いウエストが欲しくなったり、アニメの世界に行きたくなったりするのだろうか。
登場人物のほとんどが、服も髪も完璧だ。大変な手術をするのに、ハイヒールを履いたりしている。何歳になってもつやつやしたロングヘアをカールして、体にぴったりのセクシーな服を着て・・・それを着続けるために整形を繰り返す。
ハリウッドって大変そう。一度だけ豪邸街を車で通ったことがあるけど、確かにどの家も何千坪もありそうな、森のような敷地に建っていた。日本の豪邸も、あそこにあったら物置にしか見えないかもしれない・・・そんな場所である。世界中の成功者が住んでいる。日本はアメリカにあこがれてはきたけれど、何百年たってもあの域にはいかないだろう。狭い国土の狭い家、単一の狭い価値観の中で生きている、井の中の蛙的な私たち・・・だけどあの方向を目指すこともないだろう。
フランク・ロイド・ライトが称賛した日本古来の建築や自然との共生という価値が消えかけている日本。明治以来中途半端に西洋化してきたけれど、西洋化の行きつく先があのビバリーヒルズの虚栄心に満ち満ちた暮らしなら、ここらで方向を転換して、日本ならではの質の良い自然豊かな住環境、ひいては精神世界を目指すことはできないだろうか。こんなちまちました東京でもなく、過去の文化にすがるような旧城下町でもなく・・・豊かになったはずなのに昔より小さな家に住んで、あくせくと働いて生きているなんて!
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