先のノンシャランなブログがちょっと恥ずかしくなるような本を読んだ。
作者は溝口禎三さん、豊島区で会計事務所を経営している、わりと古い知人だ。兄貴肌で自然にみんなが集まってくるような、しかし熱血漢というのともちょっとちがう・・・青森県三戸育ちらしい東北の純情さを持った、豊島区は池袋というどこか下町的な大都市の、すごくスマートでもないけど、東京人らしい・・・う~ん、書けば書くほど彼の独特のキャラクターが伝わらなくなってきた・・・とにかく、とっても明るくてユニークな人である。私は奥さんとも親しいが、彼女もまた不思議な魅力のある女性で、二人ともべったりじゃないのに、なぜか二人がセットのような、全然違うキャラクターなのだけど、禎三さんの活躍の陰には、必ず奥さんの存在が感じられる――内助の功といった窮屈なものではないが――とにかく面白い夫婦なのである。
で、溝口さんの旦那さんの方が、標記の本を出版した。これが三冊目。いずれも豊島区の高野之夫区長さんを通じて、彼が外野から間接的に関わることになった区政や都政に関するものなのだが、素人目線でありながら、綿密な調査と取材に基づいた、読みやすくて面白い本である。
豊島区を選挙区にもつ自民党国会議員だった小池百合子さんの都知事選を応援することになった溝口さん。魑魅魍魎の選挙の世界を、素直で素朴な視点から読み解いていく。知りたいけど、知りなくない、あの(うちのマンションからも見える)近未来的な都庁の建物の中で起きている、コメディアンとか作家とか評論家をトップに据えた、がちがちの官僚世界・・・私も都庁に勤める知人からいろいろ聞いてはいたが・・・そしてそれらのトップや官僚を陰で動かしているらしいドンの存在!(業務というより予算取りについてだと思うが)。
ここの暗~く恐ろしい世界に、果敢にも切り込んできた小池百合子! 去年の知事選で、291万票という、党員である彼女を推薦しなかった自民党が推した元官僚・元岩手県知事の増田寛也氏をなんと100万票以上も上回る、圧倒的な投票数を獲得して都知事の座を射止めた。彼女の徹底した戦略がマスコミを動員し、選挙への関心を高めて選挙率を上げ、浮動票を取り込んだのだ。町内会とか商店街というベタな「地上戦」に対して、小池陣営はインターネット、SNSなどを効果的に使う「空中戦」を展開したのだそうだ。
この彼女の策士ぶりは、もちろん今回に始まったことではない。溝口さんはこれについて、小池さんの、独立精神を重んじる実業家の両親からの影響や、好きだった英語プラスアルファを学ぼうとカイロ大学に進学したことなど、かなり若いころからの、凡人とは違う、有能な戦略家的エピソードを掘り起こしている。やっぱり偉大な人は子どもの頃から違う、親からして違う、という、これだけはどうも古今東西不変の法則のようである。同じように子どもの頃から英語が好きだった私も一応アメリカへ短期留学したが、なんというか、最初のボタンのかけ方が・・・いってみれば、私は100円ショップで売っているような小さなプラスチックのボタンを二つくらい掛け違えて生きてきた気がしてしまう、ここに書かれた彼女の半生記を読むと。小池さんのボタンは真鍮の立派なもので、着ている服は詰襟のしっかりした軍服みたいである。まるで無駄のない、目標一直線のような生き方・・・
自虐に陥っても仕方がない。とにかく彼女は才色兼備で明るくて勇敢で、男性の潔さと女性の美しさを併せ持った、まさに「選ばれた人」であろう。エジプト留学中は第4次中東戦争(1973年)の戦火も体験した。西洋一辺倒の価値観をはやくから抜け出し、若くして真の国際人となった彼女の行く手に人生のレールは切り開かれてゆく。アラビア語の通訳、個性的なジャーナリスト竹村健一氏のTV番組のアシスタントを経て、人気ニュースキャスターに。
キャスターとして、毎日のニュースを伝える中で、世界の激動をひしひしと感じました。日本の動きを見ていてイライラしていましたからね。ましてや(だんだん業界がデジタル化してきたから)シミもシワも、ますますはっきり写るようになるとなったら、舞台を変えよう、と思った瞬間は確かにありました。
別にシミやシワが画面にはっきり写るのがいやで政治の世界に飛び込んだわけではないと思うが(笑)。きっかけは、細川護熙氏の日本新党立ち上げだった。「責任ある改革」をうたった、この元熊本知事の理念に共感した小池さんは、この新党から立候補し国会議員となった。1992年のことである。
そう、あの細川さんの登場はたしかに鮮烈だった。私もうちの人も一生懸命応援したっけ(投票しただけだけど)、日本が変わると思った・・・が細川内閣は一年足らずで終了・・・盛り上がっただけに、裏切られたというか、失望感が大きくて、以来うちの人は(かつて某県会議員の事務所で働いた経験からも)もう政治には一切関心を持たないことに決めてしまったほどである。私もつられて、次第に選挙には行かなくなった。「税金は払っているから国民的義務は果している。選挙に行かない代わりに政治に文句を言わない」と決め込んで。
しかし、さすがは小池さん。細川さんからは政治の理想を学び、次に小沢一郎さんのもとで政治の現実を学ぶ。そして小泉純一郎政権下では、地元の兵庫から「刺客」の落下傘候補として東京10区(豊島・練馬区)に降り立つことで、衆院解散選挙における与党の大勝を先導し、首相が苦闘していた郵政民営化を実現のものとした。
その後は環境大臣としてクールビズを考案、国内のみならず世界中に広め、さらには女性初の防衛大臣となる。
しかし大臣になったとはいえ官僚世界は動かしがたい。そこでこのたび、「崖から飛び降りるつもりで」、党からは孤立無援の状態で、舛添要一氏のスキャンダル辞任による東京都知事選に打って出たわけである。
溝口さんは、地元の有志とともに小池さんを応援する「勝手連」に参加して、彼女の戦いぶりを間近に見る機会を得る。そして「ものすごい人がいるものだと、小池さんの能力とパワーに圧倒されました」という。
この都知事選の本を書いた一番の動機は、なぜ自民都連(自民党都議による連合会)は、小池さんではダメだったのだろうかという疑問でした。・・・自民都連の小池候補拒否の論理を追ってゆくと、図らずも現在の既存政党の大きな問題点が現れてきました。
と、この本の送り状に書いてある。結局、これまでの歴代知事も、この自民都連、つまりはそれを牛耳るドンの力に負けたようである。都知事の権力は、米国大統領のそれに匹敵する、というような話も聞くが、そう単純ではないようだ。この本では、都知事選をめぐって繰り広げられる、この自民都連による矛盾だらけの対立候補選びが如実に描かれているのだが、それはまるでイエス・キリストと、無実の彼を裁判にかけるパリサイ人ぐらいに明確な善と悪のストーリーである。
さて、キリストないしはジャンヌダルクの生まれ変わりのような(?)小池さん、これからどうなるのだろう。すでに2020年オリンピックの開催費用の削減や豊洲市場移転問題を巡って、窮地に立たされているといった報道が目立っている。また、7月に実施される都議選では、彼女が率いる「都民ファーストの会」から過半数の議席(127人中64人)を目指しているが、この動きに対して、いまや自民都連どころか、国を敵に回してしまった感がなくはない。安倍首相が、党内の都議選の決起大会で「急に誕生した政党に都政を支える力はありません、私たちは、まなじりを決して戦い抜く決意だ」と勇ましく語ったのは一昨日のことだ。
例のドンは高齢のために都議会を去ったと言うが、今度は自民都連会長の国会議員下村博文氏やオリンピック大会組織委員会の森喜朗会長、そして首相までが攻撃を仕掛けてくる・・・
作者の溝口さんは、女性に優しい彼だからこそまた指摘できると思ったのだが、彼女の成功のカギは女性ならではの視点や立ち回り方があるという。基本的にはピラミッド構造の男性社会はどうしたって矛盾と行き詰まりに直面する。さらに男性は嫉妬深い・・・下村議員や森会長、あるいは菅義偉官房長官などの、非生産的な小池さん攻撃を見ると本当にそういう気がする。言葉の暴力に近い。攻撃するより上手に話し合いができないものか。都民も国民もどっちの味方というより、まともな大人の協力体制を望む。議会は揚げ足取りやスキャンダルをめぐって勝ち負けを競うショーではない。こうした対立をあおるマスコミのレベルもひどすぎる。(一体議会に一日どれだけの予算が使われていると思っているのか。森友学園とか首相夫人とかの話は、別のところで関係筋が論理的に処理してほしいよ、もう)
浮動票を空中戦で掴んで勝利した小池都知事だが、空中戦だけに支持者は浮動であり、この先支持し続けてくれるのかどうかかわからない。インターネットの情報はプロの発言も素人のコメントもめちゃくちゃで、信用が置けない、掴みづらいし、どう発展するかわかないし、どう影響するかもわからない魔物である。この際だから、小池さんには、国民の知性を信じて、稚拙で余計な情報や男どもの横やりに振り回されず、信じる道を行ってほしいものだが、直面する問題はどれも根が深そうで、予想外の困難があるのだろう。
理想を貫く難しさという点では、同じく細川政権誕生の頃、政界に登場した俳優の中村敦夫氏を思い出す。彼もまた若くして世界に飛び出して国際感覚を身に着け、俳優として成功したのちに、ニュースキャスター・ジャーナリストとしてTV番組を担当、その後参議院議員として独自路線で活躍し、理想を掲げた新政党も作っている。しかし結局は選挙に負けて政界を去る羽目になった。
たまたま昨年の夏に、ある俳句の会の集まりで、山頭火の朗読劇をしている彼に会い、仏教僧として得度したことを知った。「(この世の矛盾を解決するのは)仏教しかないと思っている」と言っていた。名文家としても知られる彼の著作(『国会物語―たった一人の正規軍』他)をいくつも読み、思想を理解している私にとって、中村氏の得度が、政治に失敗した厭世観から来たものなどではないことを分かっている。人一倍才能に恵まれていた彼は、若いころから人の何倍も世界を見て、体験することことができた。その人が最後にたどり着いた境地であり、それまでの経験がすべて元になっている。華やかな芸能界はもちろん、貧困による餓死の現場から政界の裏側まで、普通の人はとても経験できない世界を見て生きてきた人だ。
あら~、なんだかまたノンシャランな世界に戻りそうな私・・・だけど、同じ女性として、男性社会の矛盾を見せつけられてきた私も、小池さんが彼女のブレーンたる未来の議員とともに、新しい価値観とやり方でオジサンどもを骨抜きにしてほしいと願っている。オジサンたちだって男のピラミッド社会のあほらしさは身に染みているはずなのだ。というか、だからこそ前都知事達も頂点に立つ前に自ら降りてしまうしかなかったのだろう。まただからこそ、アメリカのトランプのような、超型破りな人しか頂点に立てなかったのだ。
とにかくずっと選挙に行っていなかったけど、溝口さんのおかげで、都議会選だけは小池さんを応援するために行こうと思う気になった。25年前に政治に失望したうちの人もそう言っている。
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田代さん、溝口です。この本を書いている最中にインドに遊びに行っていたんですよ。この題名はその時に真言宗のお坊さんと一緒に考えました。最初私は「菩薩のこころ 阿修羅の戦い」と浮かんだんですが、そのお坊さんは、「それ逆のほうがいいね」といって、それがタイトルになりました。インドの旅行の最中に、トランプが大統領になり、モディ首相が、1000ルピー紙幣,500ルピー紙幣の使用禁止を決めたり、また、インドのロマンチックな街・ムンバイの郊外で、スーパームーンを感激して追いかけたら、牛糞畑にはまって靴が糞まみれになったり、楽しい旅でした。いい感想を書いていただきありがとうございます。
返信削除わ~溝口さん、コメントありがとございます。御本はインドで書いたんですか!!面白い。インドへ行くといろいろな価値観がひっくり返りませんか?そんなブログを書いたこともあります。『ナノ・スケール 生物の世界』~宇宙との一体感』
削除今夜の出版記念パーティ、楽しみにしています。